本研究は食肉の風味を形成する食感, 味, 香りについて次の新知見を加えたものである。食肉の熟成による軟化の主原因の一つとみられるアクチン・ミオシン構造体のゆるみ現象が, 筋原線維のMg-ATPase 活性のKCl濃度依存性と最大活性値の増大となって観察されることを示し, おのおのが筋肉酵素カテプシンB, D, H, L, の共同作用とグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素の筋原線維への不可逆的結合で起こることを明らかにした。これに際し, 骨格筋カテプシンB, D, Hの高純度精製法を確立した。カテプシンLは新規酵素として発見したもので, 他所で同時期に発見された肝臓の新規酵素との類似性から, 両酵素はカテプシンLと命名された。食肉の熟成中に遊離アミノ酸が増加し, 味と加熱香気の向上に寄与する。この遊離アミノ酸の増加はおもに筋肉中性アミノペプチダーゼ類の作用によることを示し, 4個以上のアミノ酸からなるペプチドはおもに新たに発見したアミノペプチダーゼCとHの共同作用によって分解されることを明らかにした。わが国では黒毛和牛の脂肪が赤身によく交雑した霜降り肉が最もおいしいと評価されている。その主原因は該牛肉を酸素共存下で熟成後, 加熱することで生成する脂っぽい甘い芳香 (和牛香と命名) であることを示し, 本香を構成する香気成分を明らかにした。各種の食肉を食したときの畜種の判別に寄与する官能的主因子は香りであり, 味の寄与はきわめて小さいことを示した。