π共役鎖の両端に電子受容性置換基と電子供与性置換基を導入した分子はD-π-A系分子として知られており, 代表的な有機二次非線形光学分子である。これまでに提案され, 検討されてきた有機二次非線形光学材料はD-π-A系の範疇に属する分子を利用してきたものが殆どであり, 新たな分子骨格の探索は積極的には行われていなかった。D-π-A系分子の欠点として挙げられることに, 吸収波長と分子超分極率のトレードオフの関係が指摘一されている。すなわち, 分子超分極率の増大にはπ共役鎖拡張に起因する吸収波長の長波長シフトを伴い, 試料に要求される光学的透明性が犠牲になってしまうことである。そこで, 筆者らはD-π-A系分子に属さない新しいタイプの有機二次非線形光学材料の創成を目指してヘテロ環を有するベタイン化合物の分子設計を行い, それらの二次非線形光学特性を検討した。そして, この分子系は吸収極大波長を殆どシフトさせることなく, 分子超分極率の増大が容易に実現できる特異な系であることを明らかにした。本稿では分子軌道計算による分子設計, および合成で得られた種々のベタイン化合物の二次非線形光学特性について報告する。