利害関係者が重視する財務情報について,欧米では様々な実証研究が行われているが,日本では寄付者がどのような財務情報を選好しているか,実態が明らかでないままに寄付の税制優遇拡大やNPO法人会計基準の導入が議論されている.本研究では,寄付者等が重視する情報項目をアンケート調査で明らかにするとともに,模擬的な財務データを示して寄付者等が指向する財務情報の傾向を分析した.その結果,寄付者等は主観的には寄付金収入が重要であると考えても,実際には事業収入が大きい財務データを選択する傾向が有意に見られた.その一方で,人件費が少なく,事業費が大きな財務データを明確に選好するにもかかわらず,寄付者等の主観的重要性との間には有意な関係が見られなかった.今回の研究では,サンプル数が少ないといった課題も残るが,寄付者が持つ潜在的な判断基準を明らかにすることは,非営利組織の経営方針を定め,適切な情報公開を行う上で有用である.