本稿は,国立国会図書館OPACをはじめとする複数の文献検索により,「市民活動」という語の初出を調査した結果から見出された1冊の文献の解題である.それは,GHQ統治時代に誕生した労働省婦人少年局が,米国視察旅行(1950年実施)に参加した同局事務官の調査報告を,日本の女性向けにパンフレットの形態で1951年に発行したものであった.そこでは「市民活動」を広い意味での政治参加の一形態と捉える視点から,七つの特徴(市民的責任感,ヴォランタリー・サーヴィス,独立性,中立性,パブリシティ,団体運営技術,草の根の活動)が示されている.これらは,現代においても通用する論点群である.追跡調査結果から,本文献の筆者は,労働省婦人少年局婦人課長(1955年就任),同局長(1965年就任)を経て,女性初の大使(デンマーク特命全権大使1980年就任)となった高橋展子であったことが確認された.この事実は,「市民活動」という言葉の初出を越え,戦後日本の女性政策に「市民活動」の視点が反映されていた可能性を示唆する.従って,本文献は日本の市民活動研究において注目すべき重要文献であると考えられる.