目的: 本研究では,自然科学領域における各分野間の影響関係を,大きな粒度の分野分類に基づいて探る.ここでの自然科学領域とは,工学,医学,農学等の応用分野も含む.本研究で用いる分類では,分野間の引用が全体の引用の 3 割程度であり,本研究では,この分野間の引用関係について詳細な分析を行うことにより,自然科学領域の研究構造の理解を深めることを目的とする.データ: 本研究での対象は,Journal Citation Reports (JCR) 2004 Science Edition CD-ROM 版に収録されている雑誌の収載論文の引用データを,分野間の被引用/引用行列に編集しなおしたデータである. 該当する雑誌は,2000 年から 2004 年に出版され,2004 年に少なくとも 1 回の引用を受けた論文を含む雑誌 5964 誌となる.方法: まず,既存の 22 分野の分類を修正し、21 分野の区分を作成した.これは,既存の分類では非常に小さな分野が存在したためである.21 分野の区分をもとに,分野間の被引用/引用行列を作成し,このデータを次の分析の対象とした.1. 各分野の他分野引用/被引用の程度.2. 分野間の階層クラスタ関係.3. 分野間の影響関係(分野間の相互結合と非対称的な影響関係).4. 各分野が他の分野に及ぼす全体的な影響強度(Eigenfactor の手法を応用した全領域における影響度指標を用いた分析). 結果: 論文数規模は,医学生物学関連の分野が大きく,さらに,論文あたり被引用数との Spearman 順位相関の分析等から,論文数規模と影響度の相乗効果が認められた.また,論文数規模と自分野引用を除いた被引用/引用比の間にはわずかに相関が認められた.各分野の被引用傾向に基づいた分野間階層クラスタ関係からは,分析化学が農学に近いなどの,物理系,化学系というような従来型の関係とはやや異なる様相が確認できた.それぞれの分野間の相互結合の強さも,概ね,階層クラスタ関係を支持する結果となったが,物性物理-化学は,階層クラスタ関係では近い位置にあるが,相互結合としては強いものではないなど,やや異なる傾向も見られた.Eigenfactor の手法を応用した影響強度の分析では,論文数の寄与と引用の寄与を調節するいわゆるαを変動させたが,これによる順位変動が見られ,分野という大きな区分を用いても,このパラメーターの影響を受けることが解った.