本論文は樺太の特殊自然環境の下に於ける各樹種の肥大生長經過を知らんとする目的を以て先づ測樹學的測定方法即ち亞米利加合衆國北東部林業試驗場L. H. Reineke氏の創案せる方法を採用してトドマツ外2種の針葉樹,ヤナギ外2種の濶葉樹の大徑木に就て試みられた實驗成績の一部であつて,今其の要點を摘録すれば次の通である。 1) 大徑木の樹幹胸高部に於ける肥大生長の開始に就ては本調査の方法では正確な知見は得られないが,極めて大略的に謂へばトドマツ,エゾマツ,グイマツの如き針葉樹に於て生長開始が早くハンノキ,カンバの如き濶葉樹に於て遲いものゝ樣であり,樹種に依り遲速の差はあるが總括的に謂へば5月末より6月初めにかけて生長を開始するものゝ樣である。 2) 生長開始の頃より1週間毎に測定した肥大生長量の曲線はRobertson's autocata1ytic reactionの式によく當箝まる樣であつて,此の式を採用した實驗式に基き是等の樹種の生育期の最後に於ける總生長量に對する生長割合が夫々30%, 50%, 70%, 90%に達する期日を求めると之は年に依り又樹種に依り各異各樣であるが概觀すれば7月上旬迄に30%の生長を了し, 7月中旬迄に50%を, 8月の初め直に70%を,更に8月の下旬迄に90%の生長を完了するのであるが,樹種の特性を反映する事實としてグイマツは特に著しく生長が早く,ヤナギは遲い部類に屬するのが認められた。 3) 生長速度最大の時期は年に依り又樹種に依り差はあるが,一般に早き場合は7月上旬,又遲きは7月下旬である。此の場合にもグイマツに於て此の時期が最も早く到來しヤナギ,ハンノキに於て遲いのである。 4) 生長休止の時期を本調査方法で決定することは生長開始の時期を決定するよりも困難である。然し比較の問題として樹種に依る生長休止の遲速は之を窺ひ知るを得るのであるが,之に依ればグイマツ,カンバの生長休止が早く,トドマツ,ヤナギに於て遲いものゝ樣である。