以上記述し來りし處を要約して摘記すれば次の如くである。 1. 兵庫縣各地の苦竹林は不自然な枯葉を着生して居るもの,又は全幹落葉して淋しい景觀を呈して居るものが多いが,之はマダケコバチの寄生によるものが多い。 2. マダケコバチの成蟲は體長4.5~7.4粍の細長な黒色の昆蟲である。幼蟲は成熟したものは5.5~7.1粍の紡錘形乳白色を呈し,苦竹の枝の直徑2~8粍のものの内部の節部に口器を接して生活して居る。 3. マダケコバチは主として6月下旬乃至7月下旬の期間に羽化して竹枝内から脱出し飛翔する。晴天無風の日には特に運動が活發である。而して筍が生長して枝が展開するも未だ枝の〓が脱落するには至らない状態の枝の空筒内に1節間1~5個の産卵をなす,卵は比較的短期間に孵化するが, 1節間内で完全に生育し得るものは原則として1匹で極めて稀に2匹である。1世代の期間は1年のものと2年のものとあるらしく考くられるが此點は更に吟味を要する。 4. マダケコバチの寄生を受けた苦竹は幼蟲が竹枝内に存する間は多少衰弱し枯葉を混生する程度であるが,成蟲が羽化脱出すると其の脱出孔が因となつて,トビムシの如き小昆蟲や黴が侵入し,又竹枝の乾燥も助長するものの如く,其爲に俄に衰弱の度が加はるものの如く,寄生個體數の多いものは葉が枯凋落葉する。但し竹幹は橙黄色を呈するのみで尚生氣を保ち利用上支障ない。落葉後長期間放置すれば枯死する。 5. マダケコバチの幼蟲は滿2年生以下のもののみに寄生し,滿2年生以上のものには是を認むることは出來ない。 6. マダケコバチの驅除豫防法としては藥劑使用法と生態學的性質の利用法とが考へられるが,現在の處,秋冬の候の伐竹適期に被害竹林の所有者が協力して一齊に1~2年生竹を皆伐し,枝は5月中旬迄に林外に搬出して燒却するのが最徹底した方法ではないかと考へられるが,枝の乾燥したものの中では幼蟲が死滅するならば其儘使用しても支障なからうと考へられる。