以上記述し來つた處を要約して摘記すれば次の如くである。 1) 本報告は支那四川省萬縣産の支那油桐を移入して年平均氣温14℃内外の山崎町附近で造林して,日本油桐と比較した成績である。支那萬縣は年平均氣温17℃以上,年降水量約990粍で山崎町に比して温暖で年雨量は約500粍少い,冬季は特に温暖で萬縣の最低温の月である一月の平均氣温は山崎町の三月の平均氣温に匹敵して居る。然し四季を通ずる降水量の配布状態は酷似し,相關係數は+0.91±0.033である,此事實が支那油桐の育成上好影響を與へて居るのではないかとも考へられる。 2) 供試の支那油桐は日本油桐に比し耐寒性に富み發育も良好であつた。和歌山縣産の支那油桐も日本油桐に比し耐陰性も強いことを實驗によつて知り得た。 3) 支那油桐を較寒地で栽培するには其個體生態學的性質を利用し,肥沃林地に樹下植栽するか,孔状又は帶状に疎開した林内に植栽するのが有利であると考へられる。 4) 支那油桐には秋季紅葉するものと黄葉するものとがある。紅葉種は林齢3~4年にして開花結實するが黄葉種は林齢7年以上に達しなければ結實するに至らないのではないかと考へられる。 5) 紅葉種は秋季葉裏の太い葉脈附近から紅葉を初め先づ葉裏が紅紫色に紅葉し終に葉表も紅葉するに至るが,葉肉が厚い爲か葉面は暗紅色である。樹皮は新條は緑色であるが古皮は黒味勝の灰白色である。黄葉種の黄葉はハンテンボクの黄葉と同似である。樹皮は新條は緑色であるが古い部分は紅葉種よりも白味が強い。 5) 紅葉種は黄葉種に比し生長は稍劣るが地味を選ぶことが比較的少く諸害に對する抵抗力も強く,樹形はよく均勢を保ち形態の大小に論なく同似の樹形を保つて居るが,黄葉種は生長は旺盛であるが地味の肥瘠により生長にも不同を生ずること甚しく,蟲害や風害にも罹り易い。 6) 支那油桐紅葉種の林齢4年の母種から採集した果實及種子は一般の例に比し大粒で重かつた。是は品種的特徴か母樹齢の關係か今後の研究に俟たなければ斷言し難い。 7) 供試木から採集した支那油桐の果形は不同であつたが,豐産木3本の果形は酷似し形状比94~95%を示した。種子は大體に於て形状比130%内外であつた。 (1940年2月稿)