以上樺太中部地方の天然林に於けるトドマツ,エゾマツの枯損率に就き述べたる處を要約すれば次の通である。 1) 滿3-4箇年の調査に依れば,格別著しい事故のない普通の年の林木被害竝に枯損の状況は小徑木に風雪害等の機械的障害に因る被害木多く,大徑木には蟲害,菌害等に因る枯損木が多い。 2) 尚是等の被害木,枯損木を共に枯損數量として材積枯損率を計算すればトドマツ1.61%,エゾマツ0.59%,平均1.22%となる。 3) 滿3箇年の調査に依ればヤツバキクヒムシの通常型微被害林分に於ける材積枯損率はトドマツ4.08%,エゾマツ6.44%,平均4.99%である。 4) 前述の普通の年に於ける材積枯損率に對し材積生長率はトドマツ1.47%,エゾマツ2.06%,平均1.70%であり,トドマツは生長減退しつゝありてエゾマツに於てのみ生長増加が期待される。而かも之はトドマツの生長減退を補つて林分全體として僅かながらも生長を續けつゝあるものと看取される。 5) 然しながら通常型微蟲害林分と雖も外見上被害林分と看做さるゝものは最早トドマツ,エゾマツ共に急激に枯損率は生長率を超過し,特にエゾマツに於て甚だしく,前述の枯損率に對し材積生長率はトドマツ1.46%,エゾマツ2.17%,平均2.17%を示したに過ぎない。 (昭和17年2月)