異言語間のコミュニケーションは, 一方または双方がバイリンガルで, かつ当事者間に共通言語が存在する場合以外, 誰かバイリンガルな第三者の媒介を得なければ成立しない。そうした媒介に通訳と翻訳がある。実務的な通訳は二つの異なる民族が接触するとき, いつでも発生するのが, 高度な知的作業としての翻訳は, いつでも成立するわけではない。系統的翻訳事業が行われるのは, 民族が知的活性に富み, 外界から学ぶ姿勢を堅持する時代においてのみである。本稿では, 通訳から翻訳へという異言語間コミュニケーションの発展過程をたどった後, (1) 中世, (2) 近代への過渡期, (3) 現代, の三つの時代について, 翻訳出版の歴史的事実を分析する。最後に(1) 孤立国, (2) 国際化社会形成国, (3) 文化的従属国の三つのモデルを設定し, そこにおける国際コミュニケーションの態様と, その文化的含意を探る。