栃木県における干瓢の耕作面積は2500~3000町,その生産量は70~80万貫に達し,生産農家戸数は1万数千軒,年間総収金額は10億円余に及んでいる。しかしながら干瓢はよく水分を吸収し,変色し,或は黴が生えたりして,良い製品でも保管が悪いと害虫に侵害され,非常に品いたみし易い。殊に小売店頭に長い間きらされると褐色になつたり黒変したりして商品的価値が著しく損われる場合が少くない。干瓢の生産者価格と消費者価格とに大きな相違のあるのもこうした事によると言われている。干瓢のこうした変質し易い性質を防止し,しかも食味その他品質を低下せしめることなく,保存性を強化することが出来れば,干瓢の価格も安定し,もつと大衆的な食品となることと思われる。 近年干瓢の品質を高め,品いたみを防止し保存性を強化することを目的として硫黄燻蒸による漂白が行われている。併し硫黄燻蒸によつて,干瓢中に相当量の亜硫酸が残存することが予想される。食品中の亜硫酸については食品衛生法によつて許容量が限定され,規定量以上含有するものは販売禁止されている。乾杏の1kg中1gを除いて一般食品は,1kg中30mg以下でなければならない。硫黄燻蒸した干瓢は許容量以上に含有しているから,硫黄燻蒸は保存性の強化に役立つとしても,その加工処理については充分考慮されなければならない筈である。そこでいろいろ試験したが今回の試験によつて硫黄燻蒸時の硫黄の使用量と含水量の漂白効果に及ぼす影響並びに多量の亜硫酸を含有する干瓢でも,浸水し水洗することによつて完全に亜硫酸が除去されることが確認され,硫黄燻蒸による漂白をしても実害のないことが実証されたので,茲に報告する次第である。硫黄燻蒸して漂白した干瓢の食味については,必要量の数倍量の硫黄を使用して漂白したものでも,殆んど差異も劣化も認められないことが,多くの人によつて確認されたことを附言する。