1955年から1957年にわたり,べにほまれの萎凋ならびに発酵操作について試験を行つたが,その結果を要約するとつぎのとおりである。 (1) 萎凋については時間よりも重量減の影響のほうが大きい。これは紅茶の萎凋操作が生葉成分の化学的変化というよりはむしろ,水分減少による物理的変化という意味が多いことを現わしているように思われる。 (2) べにほまれの萎凋法としては,この品種が葉肉厚く,茎が太いため萎凋速度がおそいことをよく考慮して,作業を行う必要がある。しかし萎凋によつて最も影響をうける形状と香気の点からみて,従来考えられていたような強度の萎凋は必要としない。 (3) 萎凋操作によつて水色はほとんど影響がないが,萎凋時間の短いものは水色が鮮明であるが薄く,長いものは濃厚であるが,黒味をおびて清澄を欠く傾向がある。 (4) 発酵程度が進むにつれて,色沢,水色,殼色は黒味を増し,香気は清香を失い,滋味は強さがなくなる。しかし水色と滋味,香気と殼色はそれぞれ異つた傾向を示し,前者は発酵のやや進んだもの,後者は程度のやや若いものが適当である。 (5) べにほまれの発酵法としては,品質全体を綜合してみると,2時間から2時間半が適当であるが,この品種はもともと水色および滋味はきわめて濃厚であつて,特に長い発酵操作を必要としないから,香気および殼色を生かすために,これより短時間で切り上げたほうがよいと思われる。 (6) オストワルド表色法による水色の測定値と,審査による水色評点との間には密接な相関関係が認められる。しかしこれによつて発酵の終期を明確に判定することはできない。 (7) タンニソ含量も発酵に伴つて減少するが,120~150分後に減り方がゆるやかになる点がある。これと製品審査における最高点がほぼ一致するので,これによつて発酵の適度をきめることが可能ではないかと推定される。