本研究では,自己愛傾向と対人恐怖傾向の2つのパーソナリティ特性が,いずれも乖離のある不安定な自己概念を背景要因としていると仮定して検討を行った。大学生341名に,自己概念の肯定性と乖離性を測る尺度,自己概念の不安定性を測る尺度,自己愛傾向,対人恐怖傾向を測る尺度からなる質問紙調査を行った。自己概念の肯定性は日常的に知覚される自己像の測定により指標化され,乖離性は自己肯定的及び自己否定的場面を想定したときに知覚される自己像の評定差によって指標化された。その結果,自己概念の肯定性は対人恐怖傾向と負の相関,自己愛傾向と正の相関を示した。一方で,自己概念の乖離性と不安定性については,対人恐怖傾向及び自己愛傾向の下位側面との間に正の相関を一部示した。以上の結果から,この両パーソナリティ特性がともに,乖離のある不安定な自己概念を維持・構築するプロセスとして理解される可能性について議論された。