本研究では,他者を操作することに影響する個人内要因に関する臨床的指摘の実証を第一の目的とした。実証する臨床的指摘は(1)誇大化した自己評価を確証するために他者からほめられたいという欲求が高まって自己の優越性をアピールする操作を行う,(2)自尊心を保てないために他者からのケアを求める欲求が高まって自己の劣位性をアピールする操作を行う,の2つであった。また,操作と社会的スキルとの背景要因の比較を第二の目的とした。347名の大学生を対象にして調査を行った結果,臨床的指摘は両者ともに支持された。さらにそれらの臨床的指摘とは関連しない影響も見られ,操作の背景には強い自己肯定感と低い自尊心といった両方の要因があった。また,社会的スキルとの比較の結果,強い自己肯定感とともに高い自尊心をもつ場合は適応的な対人行動をとることができるが,同じ強い自己肯定感があってもそれが揺らいで不安定になった場合に,操作という対人行動に至ることが示唆された。