子どもを望み不妊治療を始めた女性が,いかにして治療をやめる選択をしたのかを,治療プロセスの語りから捉えることを目的とした。治療では子どもが授からなかった女性9名の語り方の特徴から,〈行為主体の語り〉〈共同の語り〉〈逡巡の語り〉の3型に整理し,各型より事例を提示した。〈行為主体の語り〉と〈共同の語り〉に関し,差違と共通性の観点から,治療をやめる選択に至る発達的変化を検討した。差違は,医療従事者との信頼関係の有無に基づくものだった。共通性は,治療プロセスでの困難や藤を経て,今に焦点化された治療中心の状態から今後の生活や人生に視野を転換していったことである。そして,語り口に揺らぎを伴う〈逡巡の語り〉については,語り直しの観点から,その後の発達的変化の可能性に言及した。いずれの型も,治療経験の語りが力動的に組織化されていく様相には,不妊の経験を意味づけしようとする志向性の表れがみてとれた。