本研究は,抑うつ傾向生起の心理的プロセスにおける日常ストレッサーの影響と自己価値の役割について明らかにすることを目的とした。3回にわたる質問紙調査全てに回答した小学5–6年生326名を分析対象とした。「日常ストレッサー」から「抑うつ傾向」へと至るプロセスに「自己価値」を介在させた仮説モデルに基づき,交差遅れ効果モデルを用いた共分散構造分析を実施した結果,日常ストレッサーは抑うつ傾向を促進する方向で直接影響を及ぼし,また,自己価値と抑うつ傾向には双方向の因果関係がある可能性が示された。日常ストレッサーの下位尺度である友人関係ストレッサー,学業ストレッサー,家庭ストレッサーはそれぞれ抑うつ傾向を促進し,自己価値を低減する方向に影響を及ぼしていた。さらに,抑うつ傾向を従属変数とする2要因分散分析を実施したところ,友人関係ストレッサーに対する自己価値の緩衝効果が示され,友人関係ストレッサーへの評価が高くても,自己価値が高ければ,抑うつ傾向の出現を促進しにくくなることが明らかにされた。