本研究では,ナラティヴ・アプローチを用いて化粧をする行為者にとっての場所性と化粧行為の対話性について検討する試みを行った。4名の美容職従事者(23~61歳)を対象に,複数回のライフ・ストーリー・インタビューを行い,各々の場所性と化粧行為の連関をモデル化した。第一段階では,調査協力者の語りから,宛先となる場所と化粧プロセスの相違をモデル化し,次に,宛先となる場所を人生の年輪モデル(やまだ・山田,2009)を用いてモデル化した。結果として,1)化粧行為のプロセスと宛先となる場所のあり方は他者との複合的な関係において多重に構成されること,2)化粧行為の意味は個別の経験に基づき組織化され、行為者のあり方とともに変容していくことを明らかにした。これらの結果から,化粧行為の重要な役割は行為者のあり方に変容をもたらすことであるという新たな化粧研究への示唆が得られた。