本研究では, ニンジンの保持に伴う苦味形成やその関連物質の生成に及ぼす組織に対する機械的損傷ならびに保持環境ガス中のエチレン (C2H4) の影響を調べた。 機械的損傷を受けたニンジンの苦味形成はC2H4処理によって同一個体内の傷害部で最も顕著に現れ次いで障害を与えなかった師部に現れたが木部での苦味形成は少なく, C2H4処理を行わなかった場合はいずれの部位でも苦味形成は認められなかった。また損傷を受けなかったニンジンでは苦味は形成されなかった。 苦味関連物質であるイソクマリン含量は機械的損傷を受けてC2H4処理されたニンジンの傷害部で顕著に増加したが, 健全部の師部や木部での増加は少なかった。損傷を受けなかったニンジンにC2H4処理を行ってもイソクマリン含量の増加は誘導されず, 損傷を受けたがC2H4処理を行わなかったニンジンや損傷を受けずC2H4処理されなかったニンジンではイソクマリンの蓄積はみられなかった。 損傷を受けたニンジンをC2H4処理すると, 傷害部でのフェノール物質の蓄積ならびに全糖含量と非還元糖含量の減少および還元糖の増加が誘導された。他の実験区でのこれらの含量変化は少なかった。 ニンジンの流通過程における苦味形成は, 保持環境ガス中のC2H4ならびに個体の機械的損傷によって促進されることが明らかとなった。