差しもとを繰り返すことによる一次醪の活性変化や低下した酵母の活性化に関する検討を行った後,差しもとを長期間にわたって行う小仕込み試験を行い,品質評価と酵母の安定性について検討した。得られた結果を以下に要約する。 (1)差しもとを1回行った一次醪の菌体内トレハロース含量と菌体活性は,従来の約2倍に増加したが,差しもとを繰り返していくと逆に低下した。 (2)差しもとにより菌体活性の低下した一次醪を10時間振盪することにより,一次醪の菌体活性を高めることができた。 (3)差しもとによる仕込みにおいて,一次醪を毎回振盪することにより一次醪の菌体活性を常に高く維持でき,その結果,二次最終醪のエタノール濃度は18.3%以上であった。また,差しもと4回毎に一度振盪することにより,差しもとに伴い低下した一次醪の菌体活性を回復でき,二次最終醪のエタノール濃度を18%以上に高めることが可能となった。また,長期の差しもとを行っても生酸菌反応は陰性であった。 (4)差しもとにより製造した焼酎と従来法による焼酎の香気成分を比較した結果,低沸点および中高沸点香気成分の濃度に大差なく,米焼酎の重要な香気成分である酢酸イソアミル,酢酸β–フェネチルも安定して生成されていた。また,差しもとを16回繰り返しても製品に含まれる香気成分のそれぞれの濃度は,ほとんど変わることなく安定していた。 (5)差しもとを長期間にわたり繰り返しても,焼酎酵母の識別が可能となるNTS領域の7箇所の塩基配列は全て一致していたので,使用した酵母に変異が生じたり,蔵付き酵母に置き換わった可能性は少ないものと思われた。 今後,パイロットプラントにより実証試験を行い,長期間にわたる差しもとを可能とする焼酎製造技術,および返し仕込みにより焼酎粕を削減する焼酎製造技術の実用化につなげていきたい。