(1) 清酒原料處理の一方法たる掛流しに就いてその時間と蒸米の性質並その蒸米使用醪の糖化. 醗酵等の關係を實驗室的に研究した. (2) 30分乃至3時間の掛流しに於ては浸漬米の吸水歩合, 蒸強歩合に變化なく, 蒸米の外觀並觸感には殆んど特記すべき影響を認めなかつた. (3) 蒸米に麹酵素液を作用さすと掛流し處理を行つたものは被糖化性を増し, 比重並糖分の生成量多くなり又米粒が崩れ易く著しく吸水性大となり醪が粘稠になつた. 此等の傾向は掛流し時間に比例して顯著になり特に2-3時間に及ぶと其の傾向が著しくなつた. 而して實驗温度の高低, 仕込濃度の濃薄の如何に拘らず同様の傾向を認めた. 掛流處理による醪が甘くなるのは單に醗酵が緩慢になるためのみならず蒸米の此の性質によつて著しく糖分が集積することも一大原因であると思はれる. (4) 蛋白質の分解作用 (アミノ酸の生成) は濃厚仕込以外は時間と一定の關係が認められなかつた. (5) 醗酵試驗に於ては醗酵に與へる條件は複雜で掛流の影響は一様でない. 即ち, 温度高からず且つ醗酵力和かな酵母使用等酵母の醗酵力緩慢な時は30分間の掛流しにても普通浸漬のものに較べて醗酵力は稍弱くなり, 處理時間が長くなるに從ひ微弱になつた. 酵母の醗酵力旺盛の場合は低温 (11~14℃) でも掛流し1時間位では醗酵力に影響がなかつた. 而して稍高温の場合 (20~22℃) は濃厚な仕込でも掛流し時間1時間では大なる影響なく, 2時間, 3時間と時間の延長するに從つて加速度的に醗酵が微弱となつた. 更に24~25℃の高温の場合は2時間の掛流しを行つても醗酵は微弱とならなかつた.