最近, 鑑定官室では, 清酒と合成清酒との判定依頼を受けることが多いので, 早急に判定法を撰択する必要を認め, これに就いて検討した反応の中, アルカリ添加後の着色反応に就いて述べた。 (1) 清酒又は合成清酒の10ccをとり, これを中和後, N/10 NaOHの一定量を加え, 加熱すると着色する。この着色度は, 清酒と合成清酒とでは異ることを観察したので先ず反応の内容を明らかにした。 (2) 反応には糖の存在が不可欠であるが, その充分量は少量で0.3%程度存在すれば充分で, 反応を一義的に支配するものは, アルカリ添加後のpHであることを確めた。 (3) 従つて着色度を比較することは, アルカリ側の緩衝能を比較することを意味する。多くの試料について測定の結果, 品評会出品の清酒が90~80の数値を示したに対して, 三倍増醸酒及び二級清酒は90~60の間に存する。但し例外として三倍増醸酒に一点40を示すものが存した。一方合成清酒は55~25の数値を示すことを明らかにした。これ等の数値は, 清酒の品位に関係するものでなく, アルコール添加量に関係すると見るべきである。 (4) アミノ酸滴定数, アルカリ側の緩衝能及び本反応の測定値の分布を比較することによつて, これ等の何れの数値を判定に利用しても同一の精度を得ることを知つた。 (5) 反応条件としては, 試料10ccを採り, (中和相当量+2cc) のN/10 NaOHを加えた後, 沸騰水中に10分間懸垂加熱し, 直ちに冷却して, 波長430mμ の単色光で透過度を測定する方法が適当であることを決定した。 尚本実験は鑑定宮室長渡辺八郎氏の御指導を受けたもので, 茲に厚く謝意を表します。