清酒醸造に於て用水の硬度加工に就ては古くより論義の行われた所であるが今猶その意義は解明せられたとはいえない。旧く黒野氏は水中無機燐酸の定量にブリッグス氏法を応用し且同法を以て更に酒母及びもろみ中無機燐酸の消長を検し燐酸の意義について述べるところがあつた。 酒母及びもろみに於ても当然硬度成分の溶出が考えられるのであつて (清酒中に於ける灰分の2/3は米に由来すると小穴氏の著書には見えている) 我々は先に水ゐ硬度測定に於いてシュワルッエンバッハ法を検討したが今回更にこれを酒母, もろみの濾液に応用してみた。厳密には灰化分離定量して比較を要すると思われるが, 今回この方法では硬度として凡そ6-7度に相当する石灰及び2度内外の苦土が白米より溶出することが見られ, 且掛流米の仕込で硬度成分の損失は必しも多くないこと*又玄米乃至精白米の灰分組成.中苦土は石灰より多い分析値が示されているにも拘らず**濾液中には却つて石灰の方が多いという結果が得られた。猶もろみ経過中の消長については末期には減少の傾向が認められるが著明な変化はない。