全床式の米麹による酒母, 醪の経過, 成分値, 更に製成酒の品質その他に関して従来式によるものとの間に差異があるかどうかの比較を実地について行なった。なおその他1, 2の事項について補足した。 (1) 両式の酒母の成分では全床式の方が使用時のアルコール, アミノ酸度がやや多く, 酸度がやや少く酵母数は殆んど同じであった。 (2) 両酒母の香味, 状ぼう, サバケ等の官能では何んら差異がなく両者優劣の判定は付けがたい。 (3) 醪では全床式が酸度がやや少なく, アミノ酸度が多い。このアミノ酸度の多いのは麹のproteaseが強いことを如実に裏書きしており注目される。他の成分では殆んど差が認められない。 (4) 醸酵経過では全床式がやや旺盛で香気が引き立ち, 状ぼうは両者とも坊主型で殆んど差がなかった。 (5) 製成酒では全床式の色調が判然と淡く, 雑味感が少なく上品な旨味のある酒質であり, これは麹の相異に起因するものと推定される。 (6) 酒化率では僅差であるが全床式の方が優さっていた。(7) 両式の全製麹中における人時の比率は全床式: 従来式二1: L5であり, 第一仕事 (盛り) ~ 出麹では1: 3であって明らかに人員が削減されることを示している。 (8) 全床式で従来の床をそのまま使用して行なう場合の一法として木枠に金網を張った簡単な器具を紹介した。 終りに臨み本研究を行なうにあたり絶大な協力をして下さった宝峰酒造KK.並びに同工場長藤村徳三, 技師伊藤恭平, 杜氏八重樫の各氏, その他従業員一同に対し厚く感謝の意を表します。 なお本研究費は日本酒造組合中央会の研究助成金に仰いだものでここに付記して深甚なる謝意を表します。