湿式酸化後o-フェナンスロリンで比色する方法で原料米, 清酒, 清酒かすの鉄を定量し, 一方水中の鉄定量法について現在行なわれている諸法の比較を行ない, それらの結果から清酒醸造における水, 米, 酒, かすの各鉄分の相互関係, およびそれらと清酒の色度との関係を検討した。 (1) 国税庁所定分析法によって定量した鉄は必ずしも水中の鉄の直の値を示すものではない。 (2) 仕込水の鉄が0.02ppm以下の時に限り水の鉄が原料米の鉄以下となるのであまり問題にしなくてもよいように思われる。 (3) 原料米の鉄は玄米で8~11PPm内外であるが80%程度以上に精白すると1.0~0.5PPmになり, それ以上精白度を高めても鉄はあまり減少しない。 (4) 1本のもろみについて考えると生成清酒かすの固形分全重量とかす固形分中鉄ppmとの間には逆の相関が認められた。 (5) 普通アルコール添加清酒19点について鉄の分布範囲は0.03~0.63PPmであった。また湿式酸化後比色定量した鉄と直接比色によって定量した鉄とは極めて相関が強く, 基本的には同一の値を示すもののようである。 (6) 仕込水中の鉄と清酒中の鉄, および清酒中の鉄と新酒の色度との相関はいずれも有意である。すなわち鉄の多い水で仕込んだもろみから生成した酒は鉄が多く, 鉄が多い酒は新酒時代の色が濃い。 (7) 清酒中の鉄と原料米中の鉄, およびかす中の鉄との相関は有意でないので, 原料米中の鉄のもろみへの溶出現象があるかどうかについては, はっきりした結論が出なかった。 (8) 1本のもろみについて考えると原料 (水+米) の鉄より製品 (かす十酒) の鉄が多いということが有意水準5%でいえる。したがってもろみまたは酒への鉄の混入がかなり一般的な傾向としてあるのではないかと考えられるので, 今後この点についても追究する必要がある。 終りに, 本研究に当たり種々ご指導いただいた奥田鑑定官室長, 増田, 広谷両鑑定官, 沢井山口県醸造試験場長および試料提供にご協力下さった酒造場の皆様に深く感謝いたします。なお研究費の一部は昭和37年度日本醸造協会研究奨励助成金によったものでありあわせて感謝いたします。