同一酒造場の山廃酒母について, 乳酸菌や硝酸還元菌添加の影響を調査して次の事が判明すると共に, 山廃酒母育成についての一試案を得た。 1. 硝酸還元菌群は酸度1.0以上では増殖出来ず, 又105/g以下では亜硝酸の生成に有効でない。 2. 硝酸還元菌群の増殖が旺盛過ぎれば, 生成した亜硝酸を無駄に消費すると共にガス発生菌ではふくれ状貌を呈するから, その適当な増殖量は107/g前後と考えられる。 3. 乳酸菌群は106/g以下では殆んど生酸作用を示さないから, 硝酸還元菌群が106~107/gに達した時, 乳酸菌群は一桁多い107~108/gになる事が必要なようである。 4. 山廃酒母はこれら二種の菌群のバランスの上に成立すると思われるが, 仕込水や出麹の如何によってはその微妙なバランスをとる事がかなり困難である。 5. 仕込水に硝酸カリを加工し, 水麹に硝酸還元菌を添加して, 亜硝酸が相当量生成した時, 酸度1.0になるように僅かの乳酸を添加して硝酸還元菌群を抑制する事により安全確実に山廃酒母を育成出来た。