正常な経過の山廃酒母では出麹に由来する野生酵母群が亜硝酸及び乳酸によって淘汰され著しく減少するから, 完全な単行複醸酵型式がとられ, 酒母経過の前段は酵母に対する培養基の調整と見做し得る。 このような正常な経過の山廃酒母ではある程度の酸が生成した時期には野生酵母は淘汰されているから育成過程を中断して放冷しても, 低いpHと相まって約3週間の保存に耐えることを証した。又保存酒母は, その後必要に応じて培養酵母添加により約1週問で熟成酒母に仕上げることができた。 なお, 栄養要求変異株を用いて約3週間保存したものでも十分酵母純度の高い酒母に仕上げ得ることを実証した。 終りに, 本研究に対して御協力載き且つ発表を快諾された “金の〆” 醸造元山中酒造株式会社の山中八次郎社長, 山中栄九郎専務および葛岡喜一郎杜氏始め現場の諸氏に深謝すると共に, 7号酵母変異株の御分与を賜った国税庁醸造試験所の秋山裕一氏に感謝します。 なお, 本報の方法については南部社氏協会の平野佐五郎, 古川金太郎両氏の御助言によるところ多くここに記して感謝の意を表します。