福島県下某酒造場で発生した多酸醪より桿状の一乳酸菌を分離し, 正常な山廃酒母中の乳酸菌と対比しながらその生態的性質を調査して次の結果を得た。 1.該菌の生育適温は20℃ 以上であるが, 接種量が多い場合には10℃ でも増殖した. 2.正常な山廃酒母中の乳酸菌に比べて耐酸, 耐アルコール性が強かつた。 3.速醸酒母中では乳酸のため増殖遅く, かっ酵母群増殖後には著しくその生菌数を減少した。 4.製麹経過中では高温多湿の条件の時旺盛に増殖した。 以上のことから該菌による多酸醪は一時に濃厚な汚染がなければならないが, その直接的根源は酒母でなく麹であり, それが弱性酒母という悪条件と重なり合った場合にのみ生ずることを推定した。 終りに, 本研究に対して協力された試験場員各位, および特に無菌の麹菌胞子を御恵送載いた日本醸造工業株式会社の栂野豊明氏に感謝します。