実際の山廃酒母中でみられた酵母群, 乳酸菌群および硝酸還元菌群の関係を, 酒母という特殊な環境条件を離れて, 硝酸カリ添加麹汁によるモデル酒母に再現することを試み次の結果を得た。 1. 3種の菌群関係を再現するには実際の酒母における打瀬期間の品温とみられる6-7℃ 培養が適当であった。 2. 乳酸菌および硝酸還元菌は単独もしくは両者混合接種の場合にも酵母の増殖にほとんど影響を与えなかった。 3. 低温でも硝酸還元菌の増殖が乳酸菌より速いので, 接種量を10分の1とした場合に両菌群間のバランスをとることができた。 4. 両者のバランスが適当で亜硝酸が生成した時に, 酵母群の生菌数の減少が起った。 5. 酵母の増殖に対し10ppmの亜硝酸は全く影響を与えなかったが, 乳酸酸性下では増殖を阻害したばかりでなく著しく生菌数を減少させた。 6. この現象は特に乳酸に対する特異性はなく, 塩酸酸性下でも同様に起り, 実際の酒母中でみられた酵母群に対する淘汰現象は, 結局酸性条件下における亜硝酸の作用に集約し得ることを認めた。