井水及び山廃酒母より分離した低温で増殖能の強い硝酸還元菌36株について菌学的性質を調べ次の結果を得た。 1.36株の供試菌中, 運動性を有するグラム陰性の桿菌で極べん毛を有して Pseudomonas sp. と認められるものが5株えられたが, 22株は周べん毛を有し, 乳糖より酸とガスを生成するいわゆるnon-fecal typeの大腸菌群に属する。ほかに Paracolobaotrum aerogenoides 2株, Paracolo. intermediuml 株, Achromobacter 6株を同定した。 2.Cytochrome oxidaseはべん毛の存在状態とよく一致し, 極べん毛を有して Pseudomonadaoeae に属するとみられるものは陽性, 周べん毛を有して Enterobacteriaceae に属するとみられるものは陰性を示した。 3.これらの菌は37℃ 及び42℃ では生育できないか, もしくは生育不良で, 中低温性の細菌と考えられる。また多くの菌の生育可能下限pHはブイヨンで4.5, 麹汁では5.5程度であり, 生育条件の良い時には実際の酒母で用いられている硝酸カリの10倍程度を添加しなければ, いったん生成した亜硝酸を速やかに消失した。 4.これらの菌のうちゼラチン液化力が強く, 従ってプロテアーゼ能が強いと考えられる菌株を麹と殺菌水の混合物に添加して15℃ に培養したが, 特にアミノ酸の増加蓄積はみられなかった。故にこれらの菌は酒母におけるアミノ酸の蓄積には余り関係がないと考えられた。