(1) 実地醸造における黒粕に影響をおよぼす醪の要因および黒粕と酒造工程中の酸化酵素力との関係について検討を加えた。 (2) その結果, 醪の初期のpH, 特に留水麹のpHと醪の褐変性とは関係が深いことがわかった。 (3) したがって製麹中に生成された褐変前駆物質は, pH3.8-4.0に保持されると分解, 生成が進み上槽後粕に移行し空気の接触および酸化酵素の働きによって黒粕に結びつくものと考えられる。 (4) 麹および醪の酸化酵素力と褐変性とは相関しないが, 粕の酸化酵素力と黒粕とは高度に相関する。 (5) 酸化酵素は製麹中, 酸素の供給の少ないときでも生産され, 嫌気状態での酸化酵素の生成状態は, 正常状態で製麹したときの酸化酵素やアミラーゼ等の他の酵素の生産と異なっていることがわかった。