清酒醸造では, 乳酸の有する抗菌性がたくみに利用されていることは衆知のところである。しかし, 酵母の生理におよぼす乳酸の作用についてはどうであろうか? 著者らは乳酸存在下の静置培養中に, 酵母が凝集・死滅してゆく現象をとらえ, その致死作用を刻明に追求し, また, 乳酸の作用は, 嫌気培養と好気培養とでは根本的に異なることを明らかにした。 本稿では, 乳酸存在下の酵母の生理について詳しく述べるとともに, 豊富なデータにもとついて, 酒母, または水こうじ, ぬくみとりといった環境下で乳酸がいかなる作用をおよぼすか, あるいは酵母の通気培養時に乳酸を添加することの意義等, 実用的な観点からもわかりやすく解説していただいた。 酵母仕込が普及している現在, 乳酸使用についての新たな認識を得るためにも, 一読をおすすめする。