水翫は大正時代に衰滅したが, 伝来の酒母造りの重要な一型式である。最近の進歩した技術によって水翫を再検討し, 酒質の多様化への手段とする可能性を探る為に試験を行った。 文献に従い小型化した水翫を実験室で育成した。生の白米と飯と水とで仕込み, 25~30℃ で培養した「そやし」では多くの場合, 生酸菌と酵母が集殖された。 そやし及び水翫に集殖される酵母には多酸性のキラー酵母が高頻度で出現した。また実験室で常用している酵母の出現の機会も多く, 環境に影響されるところが大きい。乳酸菌は, 外池, 百瀬らが清酒もろみ (正常及び腐造) から分離報告したものと同類の諸種の菌が分離された。 水翫では, 酵母も乳酸菌も自然集殖のため, 仕込毎に異なった性質の菌が出現し, 酒母やもろみの経過や成分が変動し, 好酒質が保たれ難い。これが水翫の欠点で安定した速醸翫におき代わり衰滅したものと考えられる。