ケルプおよびはとむぎ使用醤油の香気成分とアミノ酸類の調査に関する以上の定量成績を綜合して, 若干の考察を試みて結論を引き出すと, 次の通りである。 (1) 普通の食塩と比較すると内容の非常に異なった特殊塩たるケルプを, 仕込食塩の2/3も代用した一種の減塩諸味の醸造においては, 諸味中に増殖する発酵菌類の種類と菌数にかなりの差があらわれるであろうから, そのため諸味中での各種の発酵化学反応も当然大きな変化が出はせぬかと予想し, それを証明する手段として, 先づ諸味の発酵中に生成する醤油香気成分の変化を取り上げ, 酵母の増殖度に最も影響される各種の高級アルコール類とエステル類とについて, その経時的消長の度をガスクロマト法により調べたところ, その結果として1~2の例外を除いては, 高級アルコール類もエステル類も, 食塩量が少なくケルプ量の多い諸味ほど, 生成量が多いという定量成績が得られけれども, その差は比較的僅かなので, 総括的にみれば, ケルプを多量に代替使用したからと言って, 諸味中の化学反応にあまり大きな影響は現われないものと推論した。香気成分中, 特に多量に検出された重要化合物は, iso-ブチルとiso-アミルの両アルコールおよび酢酸ニチル, 次いでβ-フェニルエチルアルコールとiso-ヴァレリアン酸エチルおよびかヵプロン酸エチルであったが, この事実は従来の試験成績とよく一致する。 (2) 第2の手段として, 諸味中における遊離グルタミソ酸の増加度を定量したところ, これは香気成分の場合と異なり, ケルプの使用量の多い諸味ほどグルタミン酸の増加度および絶対量が大分まさるという結果が出た。但しこれは, 発酵菌類の増殖の差に基づくというより, むしろ3諸味の食塩濃度の高低に基づくプロテアーゼ作用の強弱に起因するものと思われる。 (3) 3種製品醤油について, そのアミノ酸組成をアミノ酸アナライザーにより定量したが, 1~2のアミノ酸を除いて, 他は量的に大差を認めなかった。 なお, 本試験 (第1報より第3報まで) は昭和53年3月より8月にかけて実施したものである。