赤色色素生産性清酒酵母 (3038株) を用いて桃色にごり酒を造る際に, (1) 野生酵母の汚染をうけやすい, (2) 細胞が気泡に吸着し, 消えにくい泡が立つため殺菌性や作業性が悪い, (3) 細胞が気泡と共に浮上して色むらを生じる, などの問題があったので, それらを解決するために, 色素生産性で, かつキラー性と泡なし性とを兼備する清酒酵母を育種した。 (1) 清酒酵母K-10株からFroth Flotation法によってその泡なし変異株K10NF1を得た。濃縮操作を8回くりかえした後の泡なし変異株の分離比率は35/35であった。 (2) K10 NF1株から紫外線照射, ナイスタチンスクリーニングを行った後, 色素生産性 (同時にアデニン要求性) 変異株K10NFP1を得た。その分離頻度は約1/40,000であった。 (3) 核融合欠損性 ( kar 1) 変異を持ち, K1キラープラスミドを保持する5048株またば5049株を供与菌とし, プロトプラスト融合を介してK10NFP1株にキラープラスミドを導入 (cytoduction) し, 27株を得た。その分離比率は約27/3,500であり, 全て色素生産性, 泡なし性, キラ-性を併せ持っていた。 (4) 小仕込試験によって, 27株から代表株K10NFPK1を選んだ。この菌株は, 小仕込試験において, 発酵能, 生成酒の一般成分等は3038株のそれと同等であったが, 泡立ちや色むらを生ぜず, 野生酵母の汚染防止力があることが確かめられた。 (5) なお, 当初, 既存の色素生産性酵母 (3038株) から泡なし変異株を分離しようとしたが, 色素生産性の泡なし変異株を得ることができなかった。 (昭和60年度日本農芸化学会大会において講演した) 最後に, 清酒酵母の色素生産性変異株 (3038株) を分譲していただいた国税庁醸造試験所長中村欽一博士および前同所第6研究室長西谷尚道博士に深謝いたします。