Aspergillus oryzae No.Gの生産する抗生物質であるYeastcidinの特性を利用して, 花から有用清酒酵母の分離を目的とし, 麹汁培地による集積培養法を用いて酵母分離を行った。 1.国内で採取した花241点を供試試料とし, 分離を試みたところ48株の Saccharomyces 属酵母を分離した。そのうち清酒酵母と判定された酵母は16株で, 全て泡なしタイプであった。 2. 花から分離した酵母による小仕込み試験を行ったところ, 爽やかな官能を示すAB-2株, KS-3株, MRす株を得た。一般成分値については, 対照株 (K-9株) と同等の発酵力を示し, 総酸度はKS-3株がK-9株に比べて0.3高かったものの, 他の2株は低い値であった。香気については, AB-2株はND-4株と同様にカプロン酸エチルを生成するタイプ, MR-4株はBK-1株と同様に酢酸イソアミルを生成するタイプ, KS-3株はNI-2株と同様にカプロン酸エチルと酢酸イソアミルをバランス良く生成するタイプであった。 3.各分離株の製成酒中のアミノ酸度は, 分離株による製成酒のほうがK-9株よりも3~4割少ない値を示した。アミノ酸組成を分析した結果, 花分離株はK-9株と比較し, 甘味系アミノ酸, 苦味系アミノ酸, 酸味系アミノ酸いずれも低い値を示した。一方, 総アミノ酸値に対する各系統別のトータル値 (甘味比, 苦味比, 酸味比) を算出し比較したところ, 顕著な差は認められなかった。 4.各分離株の製成酒中の有機酸組成を分析した結果, 分離株による製成酒のほうがK-9株よりもコハク酸に対するリンゴ酸の割合 (MA/SA比) が高かった。官能において, リンゴ酸特有の軽快ですっきりとした後味を感じるのはMA/SA比が0.80以上の値であった。 以上の結果より, AB-2株, KS-3株, MR-4株の3株は特長的な有機酸組成を持つことから, 多様化する消費者嗜好に適した清酒醸造を可能にする株であると思われる。