一般の市販酒において生じる老香に関与する香気成分を明らかにするため, 全国市販酒類調査試料より老香を指摘された清酒を選抜して香気成分分析および官能評価を行い, 官能評価に寄与する成分および香気成分組成の特徴(老香のない清酒や長期熟成酒との違い)について検討を行った。 老香に寄与する成分としては, 老香清酒の65%に閾値以上のDMTSが含まれていたこと, また, DMTS濃度の対数と老香強度との間に相関がみられたことから, DMTSが官能的に老香に大きく寄与していることが示唆された。一方, ソトロンは老香清酒ではほとんどが閾値以下の濃度であり, 官能評価への寄与は小さいと考えられた。 成分的な特徴としては, 揮発性アルデヒド類, エチルエステル類, ポリスルフィド(DMDS, DMTS), フルフラール, ソトロンといった貯蔵によって増加する香気成分は, 老香なし清酒く老香清酒く長期熟成酒の順に多くなった。主成分分析の結果, 老香清酒はポリスルフィドが相対的に多く, 長期熟成酒で貯蔵期間が特に長いものはソトロンをはじめとするカルボニル化合物およびコハク酸ジエチルが多い傾向がみられ, 両者の香気成分組成の違いが示唆された。