Z.rouxii の耐塩性発現における細胞膜ATPaseの関与を明確にするにはミトコンドリアATPaseの影響を排除する必要があると考え,呼吸欠損変異株を分離し,検討を加えた。 1. 分離した呼吸欠損変異株pt5は,ミトコンドリアATPase活性を欠失していると考えられ,また,高濃度の食塩存在下で増殖の遅延が認められるが耐塩性を保持していた。 2. YPD培地に比べてNaCl(10%)-YPD培地やKCI(10%)-YPD培地中での Z.rouxii の呼吸欠損変異株(pt5)の増殖は低濃度のATPase阻害剤で抑制されたのに対し,高グルコース(40%)-YPD培地中での増殖はYPD培地中よりも影響が低いことから,細胞膜ATPaseの耐塩性発現への関与が強く示唆されると共に,耐糖性と耐塩性の発現に対してその重要性に差異があることが推測された。 3. pt5株を各種濃度の食塩を含む50mMのグルコース溶液に懸濁すると基質レベルのリン酸化によると考えられるATP合成が行われ,食塩濃度に応じて菌体内ATPレベルが上昇した。また,このATPレベルに対応してプロトン排出が起こった。 4.高濃度の塩存在下でのpt5株の増殖を抑制するATPase阻害剤は生細胞に作用し,細胞膜ATPaseによるATP加水分解とプロトン排出を阻害した。