麹菌の育種および多核性解明のため,分生子中の核数分布および1核のDNA量について検討した。 1) 麹菌の分生子をDAPI(4', 6-diamidino-2-phenylindole)で核染色を行い,分生子の核数の出現頻度を明らかにした。麹菌の分生子は50%以上が2核性で,分生子あたりの平均核数は1.49~2.09で,麹菌の種・菌株により異なった。 2) 麹菌分生子の核数増加および核分裂の同調性を発芽分生子を使って検討した。対照として用いたAspergillusniger Pe-16 は分生子中の核分裂開始に1agを示し,核数増加は2時間の倍加時間で同調的に進行したので,懸濁液調製時の分生子の核の状態は核分裂の静止期であることが明らかになった。一方,分生子の核DNA量をSCHMIDT, THANNHAUSER SCHNEIDER 法で定量した。静止期の核と核分裂直後の核とはほぼ同一のDNA量 0.061および0.062 pg/nucleusで,核分裂直前の核はこれらのほぼ2倍量0.103 pg/nucleusであったので,このA.niger Pe-16 の分生子中の静止期の核1核あたりのDNA量を核DNA量の基本量と判断した。 3) 麹菌分生子中の核1核あたりのDNA量を求めた。A. oryzae は0.062~0.071pg,A. usamii は0.088pgおよびA. niger Pe-16 は0.055 pgであった。白麹菌は1核あたりのDNA量は試料間でバラツキがあった。これらは蛍光顕微鏡下,核相互の分裂期に同調性が認められなかった。 本報告は平成元年度日本農芸化学会西日本・関西支部合同大会(平成元年10月4日,琉球大学教養部)および乳酸菌・酸化発酵合同研究会(平成2年11月 10日,日本大学農獣医学部)で口演した。