1) 野生酵母2,500株からアルコール発酵と同時に多量の乳酸を生成する酵母1株を選択し, Kluyveromyces thermotolerans AN 109と同定した。本酵母の静置培養液の酸度は15.3に達し, その82.9%が乳酸であった。AN 109の静置培養菌体のADH, PDC活性は協会7号酵母 (K7) のそれに比べてそれぞれ57%, 67%と低いが, LDH活性は3.2倍と極めて高く, 多量の乳酸生成の主要因と考えられる。 2) 振盪培養を行うと菌体収量は急増するが, アルコール生成量, 特に酸度は約1/4と激減し, LDH, ADH活性は約1/4, PDC活性は63%に低下し, これらの変化の程度はK7に比べて遙かに大きいことが認められた。 3) α-またはβ-フェネチルアルコール (PEA) を添加してAN 109を振盪すると, 0.15%までは添加量の増加に従って増殖に要する時間が伸びたが, 菌体収量はほぼ一定に保たれた。アルコール生成量は増加し, 酸度は2.3倍となり, 発酵型の代謝が強まったと推察される。その程度はβ-PEAの添加が大きかった。