各種醸造酵母は同じ S.cerevisiae に所属しながら,それぞれが用途に応じた特性をもっている。一方電気泳動でみた染色体パターン,いわゆる核型はある程度その菌株の系統を反映することが知られているので,酵母の用途と核型との間の関係を検討した。 使用した100株以上のデータを目視に頼って比較することは容易でないから,染色体のサイズを泳動距離から近似式を用いて計算し,その結果を統計処理した。実際には不規則な変動が大きいために,パターン全体の類似度を統計的な解析に利用することは困難であったが,低分子量の染色体の長さには一定の傾向がみられた。 VI番の長さは清酒酵母では287±15kb,ワイン酵母では256±14kbで,実験誤差も大きく内部の変動が大きいものの,両平均値の差は優に0.1%以下の危険率で有意であった。焼酎酵母は清酒酵母に近く,泡盛,アルコール酵母は中間的な,ビール,パン用の酵母はワイン酵母に近い値を示した。1番についてはワイン,ビール,パンのグループとその他とに二分される傾向があり,またIX番は清酒酵母だけ特に長いなどの相違はあるが,いずれも基本的にはVI番染色体とよく似た結果であった。半面III番の長さはどの酵母群でも大差はなかった。 2番目に小さい染色体をVI番染色体とみなしていいことを, ACT 1遺伝子を使うサザンハイブリダイゼーションで確認した。