清酒もろみには清酒酵母が優先しやすいもろみ環境があると考えられる。しかし山田らは異種酵母でも清酒醸造が可能であったとしている。 そこで清酒酵母4株,焼酎・泡盛酵母4株,ワイン酵母4株,ビール酵母4株およびアルコール酵母4株の計20株を用い清酒もろみにおけるアルコール生成ならびに,酒母およびもろみ中での各種酵母の消長を検討したところ,密閉系による清酒もろみ培養基の発酵では, 12~14℃, 20日間の培養において,清酒酵母以外の醸造酵母で16%以上のアルコールを生成した酵母は,泡盛酵母のNI-7214酵母のみであり,他の醸造酵母は16%以下の生成であり,日本酒度も(-)あるいはボーメ値の数値であった。また開放系による清酒もろみの発酵では,清酒酵母以外の醸造酵母が清酒酵母に汚染されず,もろみ末期まで支配した場合,泡盛酵母のNI4214酵母の1株を除き,もろみのアルコール生成は13~15%と低い値であった。一方もろみ途中あるいは酒母育成時に清酒酵母に汚染されたもろみでは,日本酒度の切れが良くアルコール生成も高く, 17%以上の生成であった。 したがって清酒もろみにおいて,異種酵母が野生清酒酵母にとって変わったことは,中田らの指摘する清酒もろみの持つ低カリウム濃度,乳酸酸性,固形物の溶解などの清酒もろみの独特の環境が大きな要因をなしているものと考えた。また,異種酵母がもろみ末期まで汚染されずに健全に発酵するものはほとんどなく,したがって山田らの異種酵母による清酒醸造試験は野生清酒酵母に汚染されている結果と推察された。