25年間永年樽貯蔵した二種類のシェリービネガー (A, B) について蒸気成分を測定した。またシェリービネガーと同一酸度の酢酸水溶液およびシェリービネガーと同一化学成分を含むモデルビネガーとの比較検討を行った。 (1) 酢酸濃度8.04%, エタノール濃度0.77%の25年熟成シェリービネガーAの蒸気酢酸濃度は3.59%であった。酢酸濃度7.36%エタノール濃度2.43%の25年熟成シェリービネガーBの蒸気酢酸濃度は3.25%であった。二種類の熟成シェリービネガーの蒸気酢酸濃度は何れもそのモデルビネガーよりも少なく, 酢酸の香気が弱く, 嗅覚に及ぼす刺激と対応した。 (2) 熟成シェリービネガーA, Bと同一酢酸濃度の酢酸水溶液にシェリービネガー中の主要微量成分, エタノール, 酢酸エチル, 不揮発性エキス分を種々の量加え, これらの成分が酢酸水溶液の蒸気酢酸濃度におよぼす影響を調べた。エタノールおよび酢酸エチルは蒸気酢酸濃度を低下させ, 酢酸の香気を弱めたが, エキス分の影響は僅少であった。 (3) 熟成シェリービネガーと同一化学成分をもつモデルビネガーの蒸気酢酸濃度と同一酸度の酢酸水溶液の蒸気酢酸濃度の差異は明らかに化学成分の影響によるものである。しかしながら, 熟成シェリービネガーの蒸気酢酸濃度はモデルビネガーの蒸気酢酸濃度よりも明らかに減少しており, その差異は化学成分以外の要因も関与していると推察された。熟成シェリービネガーの酢酸の香気はモデルビネガーよりも明らかに弱く嗅覚に対する刺激が少なかった。 本研究に用いた貴重な実験試料ボデガレセルバのシェリービネガーを提供された中埜生化学研究所に謝意を表します。