25年間樽貯蔵した二種類のシェリービネガー (A, B) の融解温度, 融解熱をDSCを用いて測定した。また, シェリービネガーと同一酸度の酢酸水溶液およびシェリービネガーの同一化学成分を含むモデルビネガーとの比較検討を行った。 (1) 熟成シェリービネガー (A, B) のピーク1の融解温度および融解熱を各々のモデルビネガーAm, Bmと比較すると, その差異は僅かであった。ピーク2の融解温度はシェリービネガーA, BともにモデルビネガーAm, Bmよりも低温に出現した。シェリービネガーA, Bの融解熱はそれぞれ2.5J/g, 2.1J/g, モデルビネガーAm, Bmの融解熱はそれぞれ10.9J/g, 6.7J/gであり, 二種類の熟成シェリービネガーの融解熱は何れも, そのモデルビネガーよりも低い値を示した。 (2) 熟成シェリービネガーA, Bと同一酢酸濃度の酢酸水溶液にシェリービネガー中の主要微量成分, エタノール, 酢酸エチル, 不揮発性エキス分を種々の量加え, これらの成分が酢酸水溶液の融解温度と融解熱に及ぼす影響について調べた。エタノールおよびエキス分のピーク1にたいする影響は僅かであったが, ピーク2においては出現温度を低下させ, 融解熱の減少がみられた。酢酸エチルの影響は僅少であった。 (3) 長期間熟成のシェリービネガーのピーク2の融解熱はモデルビネガーに比べてはるかに小さい。このように融解熱が小さいと言うことは, 熟成シェリービネガーの分子集合状態のエネルギーが固体の分子集合状態のエネルギーとの差が小さいと言うことである。 本研究に用いた貴重な実験試料ボデガレセルバのシェリービネガーを提供された中埜生化学研究所に謝意を表します。