滋賀県農業試験場において, 山田錦並の酒造適性と良好な栽培特性を目標として育種された滋系酒56号の酒造適性について山田錦と比較検討した。 (1) 滋系酒56号は千粒重が約26gであり, 心白の発現は非常に良好であった。粗蛋白含量は玄米では山田錦にくらべて多いが, 70%精白米では同レベルとなり高精白に適した品種であった。 消化性では滋系酒56号がボーメ, Brixが高く, 消化残渣が低く溶解が良好であった。フォルモール窒素が高くなったが溶解が良好なことによると考えられた。アミロース含量は滋系酒56号で24.3%, 山田錦で22.4%であり, 両品種とも高いアミロース含量を示した。また, 蒸米および老化蒸米のずアミラーゼプルラナーゼ法 (BAP法) による糊化度の測定により滋系酒56号で老化の進行がゆるやかであった。示差走査熱量計 (DSC) を用いた熱特性の測定では両品種に違いは見られなかった。 精米特性では滋系酒56号で白米完全粒が多く, 良好であり, 40%精白に要する時間は山田錦と同程度であった。 (2) 清酒醸造試験結果を用いて因子分析を行い, アミノ酸と発酵に関する因子得点を算出した。その結果, アミノ酸に関する因子では両品種ともに因子得点が低く淡麗な酒質となった。しかし, 発酵に関する因子では滋系酒56号で因子得点が低く, 発酵が速い傾向が見られ, 山田錦とは異なる傾向を示した。 (3) 滋系酒56号を用いた吟醸仕込みを行ったところ, 製麹工程ではグルコアミラーゼ活性に差はみられなかったが, 酸性カルボキシペプチダーゼ活性は滋系酒56号で低くなった。清酒醸造における発酵経過はほぼ山田錦と同様であった。製成酒の一般成分に差はなく, 香気成分ではイソブチルアルコール, イソアミルアルコールが低く, カプロン酸エチルの高い製成酒となった。