広島県立農業技術センターにおいて,「山田錦」の醸造適性を維持しつつ, 短桿化による耐倒伏性の向上と早生化を目標として育成された「千本錦」の醸造適性について「山田錦」と比較検討した。 (1) 出穂期および成熟期は「山田錦」よりも5日および8日早生化し, 桿長が10cm短く, 耐倒伏性が強化されていた。 (2) 「千本錦」は玄米千粒重が約26gであり, 玄米の長さ, 幅, 厚さ及び粗タンパク質含量は,「山田錦」と比較して差があるとは言えなかった。精米特性では, 40%精白に要する時間は「千本錦」の方がやや短く, 精米歩合70%白米の完全粒率, デンプン価, 吸水性, 消化性および粗タンパク質含量は「山田錦」と同程度であった。 (3) 製麹試験の結果, 各酵素力価は「山田錦」と同程度であり, ともに良質の麹と評価された。 (4) 膠経過については, 日本酒度, アルコール度, 酸度, アミノ酸度, 香気成分, 粕歩合および白米1,000kg当たり純アルコール収得量については, 年度によっては差が認められるが, 平均値の差を検定した結果, 有意な差があるとは言えなかった。広島県立食品工業技術センターの製成酒の成分を分析した結果,「千本錦」の方がリン酸濃度が高く, 各酒造メーカーによる製成酒についても,「千本錦」の方がリン酸濃度が高1く, また,「千本錦」の膠日数が長いために, ピルビン酸濃度が低かった。官能評価においては, 有意な差は認められなかった。