1) 大正時代に姿を消したとされていた菩提翫が, 奈良県下の或る酒造場において実用規模で育成され利用されていることを知り実態調査を行なった。酒母育成に際しては, 酒蔵に住み着いている野生化した酵母と乳酸菌を利用する古典的な手法が利用さており, 菩提翫製造法の原形をよく保っていることが確認された。 2) そやし水では, 乳酸菌が速やかに増殖して乳酸を生産しpH4以下となり, 一般細菌数が減少した。酵母は5日目に増加が認められ, TTC染色の結果, 発酵性の酵母が集積したことが確認された。 3) そやし水におけるグルコースの生成には, 生米由来の酵素が関与しているものと推察され, 菩提翫のメカニズムを解明する上で重要な意味を持つものと考えられた。 4) 菩提翫 (酒母) は6日間で製造され, アルコールは8.9%で, 乳酸菌数が多かった。有機酸組成は, 速醸翫と比較して乳酸量は同程度であったが, 酢酸, ピルビン酸が多く, コハク酸, リンゴ酸が少ない特徴が認められた。 5) 醪は, 気温が高く, また, 若い酒母を枯らさずに使用したこともあり, 品温が35℃ まで急上昇し前急後緩型の経過をたどり, その酵母数は醪期間を通じ108CFU/g以上で推移し, その酵母純度は非常に高かった。 6) 濁酒は, ボディがあるが, スッキリとして口当たりが良く, 溶解・軟化した米粒が口中で新鮮な感じを与えることも相まって, 美味しいと評価された。