1. 清酒酵母のアミノ酸取り込みの増大と酒質との関係を明らかにするため, 基質特異性が低くnitrogenregulationに重要な役割を果たしているアミノ酸透過酵素 (GAP) に着目して調節の変化が清酒醸造に与える影響を検討した。 GAP1 遺伝子をアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子 ( ADH1 ) プロモーターで発現させた清酒酵母 (pGAP1/K701) は, 実際のもろみ中でもアミノ酸の透過性は増大しており, 醗酵経過への顕著な影響はみられなかった。菌体内アミノ酸濃度はもろみ初期から末期まで高く, アミノ酸組成別ではプロリンを除きすべての濃度が同等あるいは上昇していた。得られた製成酒は協会701号酵母 (K701) に比べて酢酸イソアミル濃度が高く, リンゴ酸量が多く酢酸濃度が低いものであり, 香りの華やかさが特徴的な酒質となった。 2. アンモニアの存在下で GAP1 遺伝子は抑制されることから, アンモニアのアナログであるメチルアミンを含み, プロリンを窒素源とした培地上で, K701とpGAP1/K701の生育に差異がみられた。この耐性を指標にして, K701を親株とし, 突然変異株を選抜した。生育良好な14変異株を用いて総米100gの試験醸造を行ったところ, 製成酒の構成成分はpGAP1/K701と同様の傾向が見られた。変異株のうち酢酸イソアミル含量が高く, 官能評価の結果が最も高いE136について総米1kgの仕込みを繰り返した結果, 構成成分及び酒質の再現性が得られ, もろみ中での菌体内アミノ酸濃度を測定したところ, 明らかにK701に比べて上昇していた。ノーザンプロッティングによる解析から, 窒素源豊富な条件下でもE136のGAP7遺伝子の転写量はK701に比べて増大していた。従って, プロリンを窒素源としてメチルアミン耐性を指標とした選抜により, GAPによるアミノ酸取り込み能の増大した清酒酵母の育種が可能であることが明らかとなった。