前報にて花から分離したND-4株,HNG-5株に加え,同様に集積培養法を用い,日々草からNI-2株,ベゴニアからBK畦株を分離した。これら4株の菌学的諸性質を調べたところ,全株泡なしタイプの清酒酵母であった。そこでこれら4株を用いて小仕込み試験を行ない,一般成分,香気成分分析および熟練したパネリストによる官能評価を行なった。その結果,ND-4株による製成酒は,カプロン酸エチルが特に高く官能的にもふくよかな味わいを有した。HNG-5株およびNI-2株による製成酒は,カプロン酸エチルと酢酸イソアミルをバランスよく生成した。香気成分値としては同様の傾向であるものの,官能的にはHNG-5株による製成酒は含み香が強く,NI-2株による製成酒はすべりのよい口当たりであった。BK-1株による製成酒は酢酸イソアミルが特に高く,それぞれに特徴を有する清酒を醸造することができた。また,ND-4株のカプロン酸エチル生成における発酵温度は100Cという低温下よりも13~15℃ において高いことが明らかとなった。さらに,ND-4株の製成酒においてアミノ酸の高い製品が認められたため,アルコール耐性に着目し検討したところ,ND-4株はK-9株やNI-2株に比ベアルコール耐性が弱い結果となった。このことから,高アミノ酸生成が本要因によると推察された。 これまでに分離した4株はいずれもYeastcidinの特性を利用して清酒酵母を選択的に分離する手法を用いており,本法によって今後も自然界から更に個性的な特長を有する優良株が分離できる可能性が示唆された。