1 多様な心白構造を示す胚乳変異体米の粘度の特性値をRVAで測定した。ほとんどの項目に関してパラメーター測定値は試料間でばらつき, そのほぼ中間に対照品種が位置した。心白の形状, 胚乳構造のタイプ等とRVA測定値との間には特に目立った関連は見いだせなかった。 2 糊化の特性をDSCで測定した。温度パラメーター測定値に関しては, 試料間で値がばらつき, その中間に対照品種が位置した。糊化転移熱量に関しては, 前報拗のアミロプラストの構造観察の結果, アミロプラストやデンプン粒が溶けたように見られたタイプの試料及び特異な構造ではあるが表面が類似した試料が小さい値を示し, アミロプラストが崩壊しデンプン粒が露出しているタイプの試料 (山田錦を含む) が大きい値を示した。これらの結果は, 米粒内部の微細構造がデンプンの分子構造との関連している可能性を示すものと考えられた。 3 粘度及び糊化特性値と酒造適性との関連を検討した結果, RVAのピーク粘度, 最低粘度, ブレークダウン, 最終粘度が高いと, 玄米の千粒重, 20分吸水率が高く, 粗タンパク質含量, リン含量が低い傾向が見られた。また, ピーク粘度, ブレークダウンが高いとBrix度は高くなる傾向が見られた。アミロース含量が多いと粘度は低くなるが, アミロース含量と消化性については, 有意ではないものの相関が見られた。DSCの糊化転移熱量は, 玄米の千粒重, 20分吸水率, 120分吸水率, 蒸米吸水率と正, 粗タンパク質含量, リン含量と負の相関が見られた。 4 酒造適性分析において吸水性, 消化性が良かったAグループ3品種は, 清酒醸造試験においても発酵は順調であり, 溶解が良く粕歩合も少なかった。製成酒は, 対照よりも, 酸度, アミノ酸度が低く, 官能評価において, いずれもが, 対照より良い評価を得た。特異的な胚乳細胞等の構造や酒造適性分析結果を示した変異体のうち2点は, 清酒醸造試験において, 溶解性や製成酒の品質に問題が見られ, そのうち1点には製成酒に特異香が指摘されたが原料利用率の面からは有望と考えられた。 5 心白の形状と発酵経過 (白米の溶解) との間に関連が認められたこと, 胚乳細胞の配列構造に由来する良好な吸水性を示す試料が順調な発酵経過を示したこと, 米粒中心部にガラス質の構造を持つ試料が最終的に良い溶解度を示したこと, 胚乳細胞壁周辺にタンパク質穎粒が密に存在した試料はもろみの発酵が遅れ溶解性が悪かったことなどの観察結果, 及び試験醸造酒の品質上の差異から, 原料米の心白の形状, 胚乳細胞の配列構造, 及び胚乳細胞の微細構造が清酒もろみの発酵経過及び製成酒の酒質に大きく影響を及ぼすことが示唆された。