東北地方の落葉広葉樹林においてカスミザクラを対象に散布前と散布後の種子の死亡について調べた。カスミザクラは散布前に死亡した種子はほとんどなく, 散布後はその多くが野ネズミ類に捕食された。野ネズミ類を排除した場合においても高い割合で種子の腐敗がみられた。昆虫も排除した場合はそのほとんどが生存していた。実験区内の種子の周辺で昆虫が発見され, それらはすべてツチカメムシであった。ツチカメムシを実験室に持ち帰り, カスミザクラ種子を与えたところ, 種子の側面に口吻を突き刺して吸汁することが観察された。また, ツチカメムシが吸汁した種子を用いて菌類の接種実験を行ったところ, 健全種子はほとんど腐敗しなかったが, 吸汁種子はすべて腐敗した。以上のことから, 林床に散布されたカスミザクラ種子は, 野ネズミ類の捕食をまぬがれた場合でもツチカメムシに吸汁され, その後菌が侵入して腐敗することが明らかになった。